朝の来ない夜はない

 

ニューオータニに無人自動運転のロボタクシーで到着すると、ロビーは国際会議に参加する大勢の外国人客で賑わっていた。ロビーを抜けレストランに行くとエレベーター前で素敵な女性スタッフが笑顔で迎え、予約した窓側の席に案内してくれた。
最近のレストランは、どこもロボットが席へ案内し、オーダーや配膳も全てロボット。会計は顔認証で全て完了し、レストランを出る時はロボットがお見送りしてくれる。ホテルのフロントも2030年の今はロボットが普通になった。初めは面白かったが、慣れるとちょっと味気ない。昔は当たり前だった人によるサービスが、今は高級レストランや一流ホテルの証となっている。

こうなったきっかけは、今から約10年前の2020年に起こった新型コロナウイルスだった。世界中で猛威を振るい日本でも数度に渡り緊急事態宣言が出され、皆マスク、手洗い、3蜜を避け、自粛生活を送った。コロナウイルスは経済や社会に多大な爪痕を残したが、この時を境にデジタル化やAI等の技術革新が一気に進み、日常生活をはじめ社会や産業構造までもが大きく変わるきっかけとなった。

外食産業はコロナにより壊滅的ダメージを受けたが、ワクチンが行き渡り感染がほぼ終息した後、それまでの自粛生活で溜まったフラストレーションが一気に爆発し、暫くの間どのレストランも予約が取れない程の状況が続いた。
ホテル等宿泊産業も一時閑散としていたが、ワークライフバランスやワーケーション等の浸透もあり、コロナ後はホテル宿泊も3-4泊の連泊が多くなり、1週間以上や更には数か月単位の長期滞在も珍しくなくなった。
インバウンドは外食やホテルの回復より少し遅れたが、世界全体のコロナ終息とともに外国人観光客がまた大挙して来日するようになった。東京が国際金融センター都市となったこともあり、街はどこに行っても多くの外国人であふれている。
四季折々の花が咲く日本庭園と数多くの上質なレストランを持つニューオータニは、世界各国の政財界等からたくさんの要人を迎え入れている。ホテルの宴会場は、大規模な国際会議や華やいだ結婚披露宴など、国内外の着飾った人々が行き交い、いつも活気に満ちている。ホテル内のどのレストランでも、運ばれて来た料理に皆思わず「おいしい!」と笑みがこぼれ、明るく楽しそうな会話と笑い声がまた聞こえてくる。

1964年9月ニューオータニが開業し、翌月10月東京オリンピックが開催された。映画『007は二度死ぬ』でショーン・コネリー演ずるジェームズ・ボンドがニューオータニでロケ撮影したのは1967年だった。幻の名車トヨタ2000GTに乗ったジェームズ・ボンドがニューオータニをバックに爆走する。大学生になったばっかりの私はワクワクしながらその映画を見た。
あれからもう半世紀以上がたった。振り返れば、あっと言う間でもあり、長い道のりでもあった。そんな人生の様ざまな出来事に、そっと寄り添い、ともに歩み、彩りを与えてくれるホテル。それが私にとってオータニだった。 我々の結婚式、子供の結婚式、孫の入園・入学、高齢となった父や母の長寿のお祝い…、数え切れない程の かけがえの無い思い出の一つ一つがそこにある。

2020年 新型コロナウイルスがホテル宿泊産業を直撃し、不安と絶望のどん底に陥れた。
「朝の来ない夜はない」 きっとまた素晴らしい明日がやってくる。
我々家族にとって、小さくても大切な思い出がたくさん詰まったホテルなのだから…。

注)写真は、46年前の1975年10月我々の結婚式当日、正に”My Anniversary”として正面玄関のロゴをカメラにおさめたものである。