木下真理子
第一線で活躍するゲストとともに、ホテルニューオータニの魅力をお届けする「Tokyo Stay Story」。第三回目に登場するのは、書を通して伝統文化の魅力を発信し続けている、書家の木下真理子さん。その活躍は今や国内に留まらず、海外の大手企業からもお声がかかるほど。
今回、宿泊していただくお部屋は、『禅』をコンセプトにした87室の小さなラグジュアリーホテル「エグゼクティブハウス 禅」の中でも品格あるデザイン、重厚感あるインテリアで、女性からも人気の高い「エグゼクティブ ガーデンスイート」。102㎡の広々とした空間は、“侘び・寂び”をテーマにしたシックなインテリアで統一され、リビング、ベッドルーム、書斎、メイクルームなど、それぞれのスペースがセパレートになっています。ラグジュアリーな気分を味わいながら、のんびりとお過ごしいただくには最適なお部屋です。「エグゼクティブハウス 禅」は、サービスや施設が評価され、今年『フォーブス・トラベルガイド』にて5つ星を受賞。日本の伝統美を追い求めている彼女が、ここにステイしながら感じたこととは?
部屋に入り、四方を見渡した木下さん。まず彼女の目に留まったのが、室内の配色バランスでした。
「なんでもない、いわゆる“捨て色”と言われている色が部屋の全体を包み、アクセントとして紫色が生かされている、素敵ですね。もともと高貴な色とされる紫ですが、紫系でも万葉の時代から愛されてきた菫色には、どこか心が癒されるというか、優しさを感じます」
ゆっくりと部屋で寛ぐことは夜の愉しみとして、木下さんはこれまでに何度か訪れているという、日本庭園へ向かいました。
「この庭園は、土地を切り拓いて造られたというより、森林の中に存在しているかのような趣があって。あちらこちらで、季節ごとの花が咲いていく経過が見られて、庭園を歩きながら、四季の移り変わりを、目のあたりにできるんです」
この時期は見事な桜が目に飛び込んできます。ただ、咲いている桜だけを眺めるのではなく、少し異なった視点を木下さんは教えてくださいました。
「日本で最初の勅撰和歌集である『古今和歌集』に、~待てといふに 散らでし留まる ものならば なにを桜に 思ひ増さまし~という歌がありますけれど、桜はすぐに散ってしまう儚いところに桜らしさがあって。もちろん満開の桜も綺麗ですが、桜の花びらが石畳の路地や池の水面に散った様も、情緒的で美しいですよね」
四季折々の花々が咲き乱れ、樹木が濃い木陰をつくる、池泉回遊式の日本庭園は、ホテルニューオータニのシンボルとなっています。
都心にあって、都会の喧騒を離れ、心行くまで日本情緒にひたることができる安らぎの場所です。
日本庭園をひと通り巡った後は、本格的な日本料理を気軽に味わえるダイニングバー『KATO’S DINING&BAR』へ。
令和記念 桜ディナーを堪能します。前菜には、岩の皿に華やかに盛られた1皿「和前菜祝い盛り 令和の幕開け」。
「こちらのお料理は、まず目を喜ばせてくれますね。自然の景気をイメージさせるように、特注されたという岩皿と一品一品の盛り付け方が素晴らしくて。実際に口にすると、あっさりとした味から濃厚な味まで、美妙な調和を愉しませてくれて、そういう意味でも“和”の食という感じがしました」
中でも木下さんを驚かせたのは、2つのまるで違う素材を組み合わせた「鴨フォアグラの奈良漬け」。
「フォアグラが口の中でスーッと溶けていく食感、自然発酵の奈良漬けの香り。繊細に金箔が施された装い。日本的な“包む”という行為によって奥深さが醸し出された至高の一品ですね」
食事中も独特の感性を働かせている木下さん。和食を通じてご自身の仕事と重なり合う部分も見つけたようです。
「ミニマルな部分に大きな世界を想像するというか、小さくて慎ましい料理の中に無限の世界が広がっているような。書も心を尽くした一点一画に壮大な世界観を垣間見ることがありますから、そのようなところは共通していると思います」
2019年10月23日、ホテルニューオータニは平成に続き二度目となる「即位の礼 晩餐会」をご下命いただく栄誉にあずかりました。世界190か国・600名の国賓が一堂に会した歴史的祝宴において供された料理は、グランシェフ・中島眞介が日本中の生産地を巡り、“日本を伝える”ために考案した至極のメニュー。今回木下さんにはこの春、より多くのお客さまにもお愉しみいただけるよう、同メニューに季節ならではのアレンジを取り入れた『令和記念 桜ディナー』をお愉しみいただきました。その季節にしか味わえない、特別なコースを是非ご賞味ください。
※季節によって食材やメニューが一部変わる場合がございます
“和”をデザインに取り入れ、優雅で落ち着いた雰囲気のダイニングバー。
ホテルニューオータニ日本料理料理長 宮田勇の繊細な日本料理の世界を、お手頃な料金で多彩な銘酒と共にお愉しみいただけます。
寝心地の良いベッドでゆっくりと睡眠をとった翌朝は、「禅」の宿泊者さま専用のエグゼクティブラウンジにて、スープ、サラダ、稲荷寿司、グレープフルーツジュースと、軽めのモーニングスナックをとられた木下さん。
「朝からたくさんは食べられませんので、眠気覚ましの朝食です。昨夜はなにもしないという贅沢なひと時を過ごせました」
食後は、館内の散策へ。このホテルに漂うどことなくノスタルジックな雰囲気を気に入っているようです。ホテルニューオータニは、1964年、東京オリンピック開催の年に開業しました。
「館内の装飾やアーケードなどを見ていると、約半世紀という時を辿っていくような錯覚に陥ります」
部屋に戻って、木下さんは今回のステイについて振り返ります。
「今回の滞在は、日頃、書を通して意識している日本の伝統的な美を、訪日外国人を多数迎え入れている国際的なホテルの中で、再認識できればという思いもありました。そもそもホテルは西洋の様式によって確立されていますが、ここでは、東洋の仏教思想である“空”を反映しているような『禅』という空間を設けることで、西洋の様式と日本的な美感との調和がはかられているのではないかと思いました」
ご滞在がより一層、幸せな体験となりますように。
エグゼクティブラウンジでの1日6回のフードプレゼンテーションをお愉しみください。
チェックアウトまでの数時間は、お部屋で読書タイム。
「隈研吾さんにいただいた建築の作品集、祖父が大切にしていた和歌集も持ってきました。ひとりで過ごす時間は、インターネットで繋がっている膨大な情報、数秒毎に更新されるニュースなどに囲まれた社会とは無縁になって、好きな本をめくりながら、心静かに過ごしたいですね。そのためには、上質で、最小限のものしかない、まさに“空”間が、私にとっては居心地が良く、五感も澄んできます」
部屋に入った瞬間、落ち着いた気持ちになれるのは石、竹、炭、麻、和紙など日本古来の素材を空間に取り入れたからこそ。また部屋のタイプごとに、室内の色調も江戸時代に多く取り入れられた、日本人の心を和ませる優しい色合い(墨色、鼠色、金色、黄色、紅色、さまざまな種類の茶色など)が、和のテイストのデザインを相まって、伝統文化に根付いた美を演出しています。
いよいよ、チェックアウトの時間が近づいてきました。出発前にきちんと身なりを整えて、気持ちも引き締めます。
「鏡の前は、身も心も整える場所。洗面台の横に置かれているアメニティはそれを支えてくれます。黒い色を纏った石鹸は、水に触れると静かな艶を帯びて、手にしっとりと馴染んできます。丁寧な手洗いが意識され、洗いながら清められていく気がしました」
そして、その手を包み込んでくれるのが、選び抜かれたコットンで作られた、真っ白な厚手のタオル。
「今治タオルとお聞きしましたが、ふかふかと弾力があって、良く乾き、なかなか普段では得られない感触が得られました。このような日常的な行いのひとつをとっても、特別な意味を持たせてくれる、これもホテルに宿泊する魅力ですね」
都内随一の湧き上がるような緑の先に続く広がる空をダイレクトに見渡せるビューバスや、静かで心地良い落ち着いた香りを広げる、墨をイメージした石鹸、人が一番心地良いと感じるとされる水圧で降り注ぐレインシャワーで疲れを癒す最高のバスタイムを。そして、最高級の超長綿を使用し世界一の技術で仕上げたタオルとバスローブが、湯上りの身体をふんわり包み込みます。
エグゼクティブハウス禅の「フォーブス・トラベルガイド」5つ星受賞を記念した特別な連泊プラン。1万坪の日本庭園や都内最大級の会員制スパなど、ホテルニューオータニが誇るさまざまな施設をご活用いただきながら、館内の対象レストランでお使いいただけるダイニング・クレジット特典をお付けいたします。
東アジアで古来受け継がれている伝統文化としての書を探求。専門分野は漢字(研究分野は「木簡隷」)であるが、女性の感性を生かした漢字仮名交じりの書にも取り組んでいる。
祖父の影響で6歳より筆を持ち、専門的な知識と高度な技術を習得するために、書道の研究では第一線として知られている大東文化大学に進学。そこで戦後の日本書道界を牽引した、故 青山杉雨(文化勲章受章)の継承者である髙木聖雨に師事。
大学卒業後は日本を代表する書展で作品を発表し、数々の賞を受賞。
日本初の国立三大博物館巡回展『誕生!中国文明』をはじめ、『正倉院展』、映画『利休にたずねよ』、NHK『にっぽんプレミアム』に関わる題字などを多数手掛けている。
近年は国際芸術祭「KENPOKU ART 2016」、文化庁主催のコンセプトエキシビジョン「ETERNAL〜千秒の清寂」などで、書による斬新なインスタレーション作品を発表。
2020年は、日本で最初の勅撰国史『日本書紀』が完成して1300年という節目の年にあたり、奈良県主催の記念式典において席上揮毫も披露した。
Photographer Taro Hirayama
Styling AIKA FUNAHASHI(TEAM COLORS)
Hair&make RIE HANEDA
Writer SAYAKA TAKAHASHI
衣装問合せ先
AMBIENT 06-6568-9964
Aegilium(エイジーリウム) 090-6176-7587
3月に撮影されたものです